原文
明日の夜は
何国の誰か
ながむらん
なれし御城に
残す月影
人物
会津戦争で鶴ヶ城に籠城し、のち新島八重として明治を生きた女性。 山本八重の言葉には、死者の辞世とは違う、生き残った者の喪失がある。籠城戦を戦い抜き、開城を目前にした夜、慣れ親しんだ城を明日から誰が見るのかと問う。月影は美しいまま残るのに、そこに立つ人だけが変わってしまう痛みがある。
現代語訳
明日の夜、この月をどこの誰が眺めるのだろう。慣れ親しんだ城に、月影だけを残していく。
詩の説明
辞世ではなく、失われる城を見送る歌。問いかけの形をとりながら、八重は本当は答えを知っている。明日の夜、月は同じように照るが、城を見る者は会津の人々ではないかもしれない。月影の美しさが変わらないからこそ、故郷を明け渡す痛みがいっそう濃くなる。
背景
会津戦争の開城前夜、山本八重が鶴ヶ城の白壁に簪または笄で刻んだ歌として伝わる。八重は籠城戦で銃を取り、敗戦を外から眺めた人ではなく、その城の内側にいた人だった。この一首には、死ななかった者が背負う喪失、そして美しい月を残して去らねばならない悔しさがある。